滋賀県近江八幡市のふるさと納税で最も高い人気を誇るのが、三大和牛の一つである近江牛。
その美味なる理由を教えてもらおうと、
東京・四谷の和食店『鈴なり』の料理人村田明彦さんが現地を訪ねた。

  • 村田近江牛は、神戸牛や松阪牛と並ぶ日本三大和牛ですね。その歴史を教えていただけますか。
  • 小西三大和牛のなかでも近江牛は、最も長い歴史を誇ります。1687年、彦根藩が牛肉の味噌漬けを養生薬「反本丸」として商品化したとの記録があります。江戸時代、肉は禁食でしたが、反本丸だけは幕府から認可され、一部の特権階級に賞味されていました。
  • 村田他の産地の黒毛和牛とは、肉質も違うように思います。脂の甘い香り、赤身の旨みを感じます。
  • 小西よく、脂が甘くておいしい、しつこくないと言われますね。
  • 村田そこには、近江牛が育つ風土も関係してくるのでしょうか。
  • 亀井私の牧場がある近江八幡は、水郷の町です。東は鈴鹿山系、西は比良山系、北は伊吹山西麓と、たくさんの清流が琵琶湖に流れ込みます。当然、近江牛はその清流を飲んで育ちますし、餌となる稲わらもそこで栽培されています。
  • 村田ここは、やはり有名な近江米の一大産地でもあるんですね。
  • 亀井近江八幡のなかでも大中は、戦後、米の増産を計画した政府が琵琶湖の内湖の水を抜き、干拓化したところです。山々から流れ込む水のミネラル分と、湖に棲息していた微生物の恩恵で、とても肥沃な土地になりました。だから、そこで育つ近江米の稲わらには、たくさんの良質なバクテリアがついています。牛は微生物の助けを借りて食物を消化するので、健康で元気な牛が育つ条件がそろっているんです

オレイン酸が多く融点が低いので、
体に負担がない

  • 村田先ほど牛舎を見ましたが、亀井牧場さんの牛はみな穏やかですね。 においもほとんどない。
  • 亀井オガクズに乾燥させた牛ふんを混ぜて、さらに、においの成分を分解する無色透明のバクテリアを定期的に散布していきます。それにより、牛の寝床の状態も良くなります。牛は寝床が汚いと横になれず、それがストレスとなり、肉質も悪くなってしまう。牛はとてもデリケートな動物なんですよ。そして、牛ふんたい肥を米農家さんに分けて、自然たい肥として使うという循環型システムも確立されています。

  • 小西亀井牧場さんの牛肉は、オレイン酸が多いのも特徴ですね。
  • 亀井県内にあるビール工場のビールかすを餌に混ぜます。ビール酵母の風味が牛の食欲を増進させて、体も大きくなり、オレイン酸も豊富になると考えています。
  • 小西一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸は、脂肪の融点が低いのも特徴です。手で触ると、近江牛はつるりと脂が溶け出てきます。
  • 村田人肌ですか。食べると体に無理なく溶け込む感覚がするのは、そこに理由があるのですね。

「穏やかな性格の牛は太りやすいし、肉質も良くなる。だから、私たちも牛に愛情のこもったスキンシップを心がけています」(亀井さん)。牛舎には、クラシック音楽が流れる。上の写真は牛舎をバックに亀井さん親子。

サシの甘みと赤身の旨みの
バランスのいい肉がトレンド

  • 亀井ビールかすを入れると肉の味も良くなります。ただしサシは少なく、赤身が多くなるのです。品評会で賞を狙うには、やはり多くのサシが必要です。普通、健康な筋肉には脂は入らないので、霜降りにするには一時期、極度にビタミンAを欠乏させなければならない。でも、そのビタミンコントロールを極端にやると牛は不健康になり、目が見えなくなったりします。とはいえ私は、食べていただくからには健康な牛を育てたい。体が美しく元気で、そこそこサシも入っているのが私の理想形です。
  • 村田甘みや香りは牛肉の脂から来るものですが、旨みは赤身由来ですね。和食の料理人から見ると、バランスは大事だと思います。そう考えれば、サシのやや少ないA3やA4の牛肉を選んでもいいわけですね。もちろん、霜降りの見た目の美しさや贅沢さを味わうにはA5も素晴らしいですけれど。

  • 小西確かに、最近はサシが多いと脂が強過ぎるという声もあります。 サシも適度で、味もいいというのが今のトレンドです。霜降り礼賛からは少し変化が見られます。
  • 村田時代とともに、近江牛も、変化や進化を遂げているのですね。

近江牛を肥育するプロ、肉の目利きのスペシャリストに、料理人の村田さんから次々と質問が飛んだ。

循環型農業
で育まれる近江牛

秋に稲を刈ると、その稲わらが牛の飼料となる。水田には牛ふんたい肥を撒き、翌年の稲作に備える。米農家だけでなく、野菜農家も牛ふんたい肥を利用するなど、理想的なエコリサイクルのシステムが出来上がっている。

  • 亀井牧場の新牛舎。天井が高く明るく清潔で、牛にとっては快適な環境。

  • 大中湖の干拓地には約1000haもの広大な農地があり、近江米の一大産地。

  • 山からミネラルたっぷりの清水が流れ込み、微生物や小魚も棲む琵琶湖。

【村田シェフの結論】近江牛の旨さを
もっと引き出したい

鈴なり店主 村田明彦さん

自分のような料理人から見ると、近江牛はとても使いやすい食材です。肉質が良くおいしいし、お客様に出したときにすぐに分かってもらえるブランドもある。そして、原価もまだそこまで高騰していない。脂の質がいいので、和食のだしにも合わせやすいです。

私は全国のさまざまな生産者のもとを訪れていますが、優れた食材が生まれる土地に共通するのは水の良さです。近江八幡もまた、例外ではありません。周囲を山々に囲まれ、良質な水に恵まれ、そこで近江米が栽培されている。そういった山や水、米とともに、近江牛もあるのです。近江牛の水を感じる肉質というのか、口溶けの良さや体になじみやすい感覚は、この風土の恩恵だと思います。

新宿区四谷荒木町に位置する「鈴なり」。
予約困難な人気店。

だしの旨みと牛肉の
オレイン酸が調和

近江牛の美味をそのまま堪能するなら、やはりステーキがいいですね。塩、胡椒、大根おろしなどでシンプルに。もう一つの定番が、しゃぶしゃぶです。その際はスープにだしを使うと昆布のグルタミン酸、鰹節のイノシン酸、近江牛のオレイン酸が掛け算となり、複雑な味わいになります。ぜひ、キャベツやネギなどの野菜を千切りにして、しゃぶしゃぶの肉と一緒に食べてください。近江牛の脂が野菜にしっとりまとわりつき、野菜からの甘みもスープに出て、おいしく食べ進めることができます。今回、現地に行って印象的だったのは、肥育農家の方が近江牛に誇りを持ち、しかし現在のブランドにあぐらをかくことなく、常に勉強し、愛情を注いで牛を育てておられることでした。料理もそうですが、ひとつまみの塩を入れるのも、心からお客様においしいものを食べてほしいと願うかどうかで、味が変わります。水がいい、風土がいい、人がいい。近江牛が美味なる理由に、得心がいきました。

キャベツ・ネギと
合わせるしゃぶしゃぶ

だしに薄口醤油、塩、みりん、風味づけのごま油やラー油を混ぜてスープを作り、近江牛と野菜をくぐらせて食べるしゃぶしゃぶを村田さんは提案。温泉卵をつけながら食べれば、すき焼き風にもなる。

近江牛の謝礼品は村田シェフ考案レシピ付き 近江牛の謝礼品は村田シェフ考案レシピ付き

近江牛関連の謝礼品を選んだ人に、今なら、村田シェフが特別に考案したレシピが付く特典もある。

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    1万円(もしくは5000ポイント)
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    カネ吉山本が厳選した黒毛和牛と近江牛が100%のプレミアムハンバーグ。贅沢に、近江牛肉をぐるりと巻いている。1個約150g×6個。

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    ※2018年9月時点

    近江牛の見た目の美しさ、焼くときの香り、ナイフを入れたときの柔らかさと、近江八幡市で大切に育てられた違いが分かる。3枚750g。

本記事は『日経おとなのOFF2018年10月号』に掲載した内容を日経BP社の許諾を得て掲載しております。禁無断転載。